売掛金が回収不能な場合どう対処する?対策や仕訳方法も解説!

記事公開日:2025年4月16日

最終更新日:2025年4月16日

売掛金の回収が滞ると、企業の資金繰りに深刻な影響を及ぼします。

取引先の資金難や倒産、相殺処理、請求内容への疑義など、回収不能となる原因はさまざまですが、適切な対策を講じることでリスクを最小限に抑えられます。

本記事では、売掛金が回収不能になった場合の具体的な対処法や、未回収リスクを防ぐための管理方法、仕訳処理の方法、回収不能になった場合のリスクを詳しく解説します。

売掛金が回収不能になる理由

企業間取引では、売掛金の回収が滞ることがあります。支払忘れや請求ミスなら解決できますが、取引先の資金繰り悪化や倒産リスクが関係している場合、回収が困難になる可能性があります。

また、相殺処理や請求内容への疑義が支払遅延の原因となる場合もあります。ここでは、売掛金が回収不能となる主な要因とその対策や注意点を解説します。

請求や支払いにミスがある

請求ミスや支払い忘れが原因で、取引先が売掛金を支払っていないケースがあります。長年の取引先では稀ですが、新規取引や単発の取引では担当者の経験不足により発生することがあります。

このような場合、支払いを確認できないとわかった時点で、取引先に対して電話やメールで催促すれば解決できるはずです。

「支払いがない」と気付いたら、放置せずに速やかに相手に確認を取ることが適切な対応となります。

取引先の資金繰りが困難になっている

取引先の資金繰りが厳しくなると、売掛金の支払いが遅れることがあります。一時的な遅れであれば問題ないですが、頻繁に入金が滞る場合は取引先の経営状況が悪化している可能性があります。

最悪の場合、取引先が倒産するリスクもあります。取引先が倒産すれば売掛金の回収は困難となり、自社の資金繰りにも影響を及ぼしかねません。

そのため、取引先の支払状況を注視し、必要に応じて貸倒引当金の計上などの対応を取りましょう。

取引先が相殺を考えている

相殺とは、双方が持つ債権を差し引くことで債務を消滅させる仕組みです。

例えば、自社が取引先に100万円の売掛金を持ち、取引先が自社に対して同額の債権を持っている場合、相殺により債務を帳消しにできます。

ただし、売掛金の回収が現金ではなく相殺で処理されると、資金が手元に入らず、自社の資金繰りに影響を及ぼす可能性があります。

取引先から相殺の提案を受けた際には慎重に検討しましょう。

取引先が支払いに納得していない

取引先が請求内容や金額に納得せず、支払いを見合わせることがあります。

こうしたケースでは、自社が提供した商品・サービスに対して不満や認識の違いを感じている可能性があります。

まずは取引先の意向を確認した上で、請求内容と提供内容の間に差異がないかを検証し、もし誤解や問題が見つかれば修正や説明を行いましょう。

ただし、意図的にクレームをつけて支払いを引き延ばすケースもあるため、正当な請求であるかを明確にしましょう。

売掛金が回収不能になった場合の対処法

売掛金の回収が滞った際に適切な対策を取らなければ、回収が不能となり、自社の資金繰りに悪影響を及ぼす可能性があります。

ここでは、回収できない場合の具体的な対処法を解説します。売掛金の回収不能リスクを最小限に抑え、健全な経営を維持するための知識を身につけましょう。

売掛金の放棄による損金処理

取引先が長期間にわたり債務超過状態にある場合、売掛金の回収が困難になることがあります。このような場合、自社が売掛金の権利を放棄することで「貸倒損失」として損金処理することが可能です。

これにより、売掛金が回収不能となっても課税対象から除外でき、税負担を軽減できます。損金処理を行う際には、債権放棄通知書を作成し、相手に通知することが重要です。

文書は書面に記名押印した上で内容証明で送付しましょう。なお、損金処理の方法は債権の種類によって異なります。

文書の例文は以下のとおりです。

株式会社××××
代表取締役:○○殿
住所:東京都○○区

債権放棄通知書

当社(または当方)が有する以下の売掛金債権について、諸般の事情を照らし、これを放棄することを決定しましたので、ここに通知いたします。

契約開始日:令和〇年〇月〇日
業務内容・商品:
売掛金額:金1,000万円
納品日・引渡日:令和〇年△月△日
売掛金支払期限:令和〇年×月△日

令和〇年×月×日(放棄する日)
株式会社○○○○
代表取締役:○○○○
住所:東京都○○区

公的融資の利用

取引先から売掛金を回収できず、自社の資金繰りに悪影響が生じた場合、日本政策金融公庫の「取引企業倒産対応資金(セーフティネット貸付)」を活用することが有効です。

これは、取引先の倒産などの外的要因による一時的な業績悪化に直面した中小企業を支援する公的融資制度です。将来的に業績の回復が見込まれる企業の経営基盤を強化し、資金繰りの安定を図ることを目的としています。

セーフティネット貸付を利用するためには、以下のいずれかの条件を満たす必要があります。

  • 倒産企業に対して50万円以上の売掛金債権を有している
  • 倒産企業への取引依存度が20%以上である
  • 倒産企業に対して貸付金や差入保証金などの債権を有している
  • 倒産企業の債務を保証している
  • 倒産企業が運営する商業施設に入居し、業況悪化の影響を受ける可能性がある
  • 倒産企業から受注予定の商品やサービスが、倒産によって取り消された

出典:日本政策金融公庫ホームページ別ウィンドウで開きます

売掛金の回収が困難になった場合は、資金繰りの悪化を防ぐために、適切な公的融資の利用を検討してみましょう。

法的手段での回収

取引先が売掛金の支払いに応じない場合、法的手段によって回収を図る方法を検討しましょう。ただし、いきなり訴訟を起こすのではなく、まずは話し合いや請求通知などで対応することが重要です。それでも解決しない場合には、法的手段による回収へと移行します。

法的手段による回収の基本的な流れは以下の通りです。

  1. 1. 内容証明を送る
    売掛金の請求を正式に通知し、請求の証拠を残します。
  2. 2. 仮差押をする
    相手が財産を処分しないよう、裁判前に保全措置を講じます。
  3. 3. 裁判の準備をする
    状況に応じて手続きを裁判所で行います。法的手段には以下の方法があり、それぞれ異なる債務名義を取得できます。
  • 訴訟
    裁判所で争う方法。「確定判決」「仮執行宣言付判決」を取得。
  • 支払督促
    簡易裁判所を通じて請求する方法。「仮執行宣言付支払督促」を取得。
  • 民事調停
    調停委員を介した話し合いで解決する方法。「調停調書」を取得。
  1. 4. 強制執行を行う
    訴訟を起こして勝訴してもなお、取引先が支払わない場合には「強制執行」へと移ります。

回収不能となった売掛金の仕訳方法

売掛金が回収不能になった場合、どうすればよいのでしょうか。

ここでは、回収不能となった売掛金の仕訳方法として、貸倒損失の処理について解説します。

貸倒損失には「法律上の貸倒れ」「事実上の貸倒れ」「形式上の貸倒れ」の3種類があり、3つのケースごとに会計処理の方法も含めて詳しく説明します。

貸倒損失とは

企業間取引で売掛金が回収できなくなった際、未回収のまま放置することなく、適切な処理を行うことが重要です。そこで行うのが貸倒損失です。

貸倒損失とは、売掛金を回収できない場合、その損失額を会計処理するための勘定科目です。貸倒損失として処理する税務上の損金算入が可能となり、企業の財務健全性を維持できます。

ただし、どのような状況でも貸倒損失として計上できるわけではなく、税務上認められる「貸倒れ」には3つの種類があります。

  • 1.法律上の貸倒れ
  • 2.事実上の貸倒れ
  • 3.形式上の貸倒れ

それぞれの違いについては、以下で詳しく解説します。

法律上で債権が消滅している場合(法律上の貸倒れ)

法律上で債権が消滅していると認められる場合には、「法律上の貸倒れ」として貸倒損失を計上できます。これは、裁判所の決定により債権が消滅するケースを指します。

例えば、会社更生法や民事再生法の適用を受けた企業の再生計画が認可され、債権放棄が確定した場合などが該当します。このケースでは、自社が会計上で貸倒損失を計上していなくても、税務上は自動的に損金算入されます。

要するに、会計処理の有無に関わらず、税務申告時に所得を減額できます。

国税庁によると、「法律上の貸倒れ」に区分されるケースは下記の通りです。

  • 1.会社更生法、金融機関等の更生手続の特例等に関する法律、会社法、民事再生法の規定により切り捨てられた金額
  • 2.法令の規定による整理手続によらない債権者集会の協議決定および行政機関や金融機関などのあっせんによる協議で、合理的な基準によって切り捨てられた金額
  • 3.債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができない場合に、その債務者に対して、書面で明らかにした債務免除額

出典:国税庁別ウィンドウで開きます

ここで、「法律上の貸倒れ」における貸倒損失の経理処理を確認します。「裁判所の決定で売掛金1000万円が法律上消滅した」場合は以下の通りです。

借方 貸方
貸倒損失 10,000,000円 売掛金 10,000,000円

回収不能であることが明白になった場合(事実上の貸倒れ)

売掛金が回収不能であることが明確になった場合、「事実上の貸倒れ」として貸倒損失を計上できます。これは、取引先の経営悪化や事業停止により、売掛金の回収が事実上不可能であることが明白になった場合に適用されます。

「事実上の貸倒れ」は「法律上の貸倒れ」とは異なり、会計上で適切に貸倒損失として仕訳処理を行う必要があります。

つまり、会計処理を失念すると、税務上も損金算入が認められず、当該事業年度での減額ができなくなります。「事実上の貸倒れ」に関する国税庁の説明は下記の通りです。

債務者の資産状況、支払能力等からその全額が回収できないことが明らかになった場合は、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理することができます。ただし担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ損金経理はできません。なお、保証債務は現実に履行した後でなければ貸倒れの対象とすることはできません。

出典:国税庁別ウィンドウで開きます

ここで、「事実上の貸倒れ」における貸倒損失の経理処理を確認します。「取引先が事業停止し、売掛金2000万円が事実上消滅した」場合は以下の通りです。

借方 貸方
貸倒損失 20,000,000円 売掛金 20,000,000円

取引停止から1年以上経過、もしくは弁済がない場合(形式上の貸倒れ)

取引先との取引が停止し、1年以上経過しても売掛金の支払いがなく、督促を行っても弁済がない場合、「形式上の貸倒れ」として処理できます。

この場合、会計上「貸倒損失」として損金経理を行いますが、売掛金を完全に削除するのではなく、備忘価額を設定する必要があります。

備忘価額とは、実質的に価値がなくなった資産について、1円や10円などの金額で帳簿に残し、簿外資産にならないようにする処理方法です。

「形式上の貸倒れ」に関する国税庁の説明は下記の通りです。

  • 1.継続的な取引を行っていた債務者の資産状況、支払能力等が悪化したため、その債務者との取引を停止した場合において、その取引停止の時と最後の弁済の時などのうち最も遅い時から1年以上経過したとき(ただし、その売掛債権について担保物のある場合は除きます。)。なお、不動産取引のように、たまたま取引を行った債務者に対する売掛債権については、この取扱いの適用はありません。
  • 2.同一地域の債務者に対する売掛債権の総額が取立費用より少なく、支払を督促しても弁済がない場合

出典:国税庁別ウィンドウで開きます

ここで、「形式上の貸倒れ」における貸倒損失の経理処理を確認します。「一定期間の取引停止後、弁済がない売掛金3000万円に対し、備忘価格10円を残して貸倒処理した」場合は以下の通りです。

借方 貸方
貸倒損失 29,999,990円 売掛金 29,999,990円

売掛金が回収不能になった場合のリスク

売掛金の回収を放置すると、時効による権利の消滅、信用力の低下、資金繰りの悪化など、深刻な影響を受ける可能性があります。

ここでは、回収不能となることで生じる3つの主要なリスクを解説します。

1. 時効による消滅のリスク

売掛金には時効があり、未回収のまま5年が経過すると、法律上の請求権が消滅してしまいます。時効が成立すると債権回収は不可能になります。適切な催促を行わなければ、最終的に売掛金が失われてしまうため、早めの対応が必要です。

2. 信用力の低下や倒産のリスク

売掛金の未回収が増えると、企業の信用力に悪影響を及ぼします。特に、貸倒引当金を計上すると財務状況が悪化し、銀行融資の審査に影響を与える可能性があります。さらに、取引先の倒産により回収不能となると、自社の資金繰りが悪化します。

3. 取引先の支払いの優先順位が下がるリスク

売掛金の支払いは、取引先の資金状況によって優先順位が決まることがあり、支払いを催促しないと、さらに支払いが遅れるリスクが高まります。結果として、企業のキャッシュフローが悪化し、経営が圧迫される可能性があります。

売掛金の回収不能を防ぐための対策

売掛金の回収不能を防ぐことは、企業の財務健全性を保つために非常に重要です。

ここでは、取引先の与信管理を徹底すること、売掛金の管理体制を整備することの2つの視点から具体的な対策を解説します。

適切な対策を講じて未回収リスクを未然に防ぎ、健全な経営を維持しましょう。

取引先の与信管理の徹底

売掛金の回収不能を防ぐためには、取引先の与信管理を徹底することが不可欠です。売掛金が発生する掛け取引は、商品やサービスを提供した後に代金を回収する仕組みのため、相手の信用度を事前に確認し、支払能力があるかを見極めることが重要です。

与信管理の方法は以下の通りです。

  • 社内調査
    過去の取引履歴や担当者からの情報を確認
  • 直接調査
    企業訪問や電話・アンケートなどで経営状況を把握
  • 外部調査
    登記情報や公的データを収集し、信用度を分析
  • 依頼調査
    調査会社を利用し、財務状況を精査

また、与信管理は取引開始時だけでなく継続的に行うことが重要です。取引先の業績や支払実績を常にチェックし、必要に応じて取引条件を見直すことで、売掛金の未回収リスクを未然に防ぎましょう。

取引先の売掛金管理の徹底

売掛金の管理を適切に行うことは、企業の資金繰りを健全に保ち、回収不能リスクを防ぐために不可欠です。ここでは、売掛金管理を徹底するための3つのポイントを解説します。

1. 信用関係が構築されるまで、新規顧客との取引条件に制限をかける

新規取引先とは、十分な信用関係が築かれるまでは取引条件に一定の制限を設けることが重要です。例えば、取引金額の上限を設定したり、通常より短い支払期日を設定したりすることで、回収不能リスクを軽減できます。

2. 売掛金発生から入金までのフロー整備

売掛金の発生から入金までの流れを社内ルールとして明確に整備し、スムーズな回収を促進します。まず請求金額の確定後に速やかに請求書を送付し、遅延発生時の催促を自動化したり資金繰り表を活用したりして、入金期限を管理しましょう。

3. 取引先と丁寧にコミュニケーションをとる

取引先と定期的にコミュニケーションを取ることで、経営状況の変化や支払いの遅れを早期に察知できます。普段から取引先の状況を把握しておくことで、未回収のリスクを最小限に抑えられます。

売掛金管理の手段の一つとしては、外部の代行サービスの利用も有効です。様々なサービスが展開されているため、自社に合ったものを選びましょう。

より効率的・効果的な債権保全に向けて ~オリコB2B決済サービスの活用~

売掛金の回収が滞ると企業の資金繰りが悪化し、経営に大きな影響を及ぼす可能性があります。取引先の資金難や倒産、請求トラブルなどが原因となることが多く、適切な対策が不可欠です。未回収リスクを最小限に抑えるためには、取引先の与信管理を徹底し、売掛金の管理体制を強化することが重要です。

オリコは、企業の取引先に対する売掛金の回収を保証する「B2B決済サービス(売掛金決済保証)」を提供しています。「B2B決済サービス」を利用すれば、所定の審査の上で、売掛金の決済を保証することに加え、与信・請求・回収・入金管理・督促に係る一連の業務をオリコが一手に引き受けるため、企業間取引におけるさまざまなコストや回収リスクを軽減できます。

B2B決済サービス(売掛金決済保証)

  • 特長1

    取引先管理業務の効率化

    取引先の与信や管理にかかる時間を削減することで業務に集中できます。

  • 特長2

    新規取引先の拡大

    小規模法人や個人事業主まで取扱い、与信枠内は全額保証されます。

  • 特長3

    集金業務の効率化

    督促や債権回収はオリコが行うため、未納リスクを気にせず営業活動に専念できます。

  • 掲載している情報は、最終更新日時点のものとなっております。
  • 本サイトは、法的アドバイスを目的としておりません。当社は本サイト(テンプレートを含む)の正確性と信頼性の確立に努めておりますが、ご利用の場合には、個別の状況に応じて専門家に相談の上、ご自身でご判断をお願い申し上げます。

関連記事

おすすめサービス